
OEM在庫が売れ残ってしまった…。そんな時に知っておきたいのが、損金計上と売却、それぞれのメリットと税務上の違いです。目次を見て必要なところから読んでみてください。
OEM在庫処分における税務処理の基本
在庫処分とは?
在庫処分とは、販売計画に合わなくなった商品や、長期的に売れる見込みがない在庫を減らすための行動を指します。
「どうしても売れ残ってしまった」「納品先の都合でキャンセルになった」といった事情から、倉庫に在庫がたまってしまうことってありますよね。
とくにOEM(他社ブランドの商品を代わりに製造する)での在庫は、自社ブランドでは販売できないため、そのままでは資産になりにくいという特性があります。
このような在庫を“どう処分するか”は、経営にも税務にも大きく影響する大切なテーマなんです。
在庫処分の方法には、以下のような選択肢があります。
- アウトレット販売や訳ありECへの出品
- 法人・業者向けのまとめ売り
- 福袋やセット商品としての再販
- やむを得ず廃棄処分するケース
「廃棄=損」ではなく、「どう現金化するか?」という視点がとても大切です。
そしてこの判断には、税務上の処理が深く関わってきます。
税務上の在庫評価と処分の関係性
在庫は、企業にとって“売れる前の商品”=資産として計上されます。
でも、この在庫が売れずに倉庫に眠り続けていると、**資産としての価値を持ちながら、現金にもならない“重たい存在”**になってしまいます。
税務の観点では、在庫は「期末商品棚卸高」として計上されるため、原則として損金(経費)として認められません。
ただし、一定の条件下では、以下のような処理が可能になります。
処理方法 | 税務上の扱い | ポイント解説 |
---|---|---|
損金計上 | 条件を満たせば経費として処理可 | 実際に「廃棄」「値下げ販売」など実態が必要 |
棚卸評価減 | 評価額の引き下げによって調整可能 | 実際の販売価格など合理的根拠が必要 |
売却による収益化 | 売上として計上され、利益が発生 | 現金化はできるが、課税対象にもなる |
このように、在庫を“どう評価して処理するか”は、利益や納税額にも影響する重要な判断ポイントになります。
特にOEM在庫の場合、「正規価格での販売が難しい」「ブランド制約がある」といった事情をふまえて、損金計上・売却・評価減のどれが最も自社に合っているかを考える必要があります。
損金計上と売却、それぞれの税務的取り扱い

損金計上とは?
税務上における「損金計上」とは、経費として認められることで、課税対象となる利益を圧縮できる処理のことを指します。
在庫に関しても、一定の条件を満たせば「もはや売れない商品」として、損金計上することが可能になります。
たとえば、賞味期限が近い食品や、納品できなかったOEM在庫などは、価値が著しく下がっているとみなされるケースがあります。
ただし、損金として計上するには、「廃棄処分した証拠」や「著しい値引き販売を行った事実」など、実態に基づいた根拠が必要です。
✅ ポイント
- ただ単に“売れていない”という理由だけでは損金計上できません
- 税務調査でも説明できる記録や処分方法が求められます
在庫を損金計上するメリット・デメリット
不良在庫を損金処理することで、一時的に利益を圧縮でき、納税額を抑えることができるのは大きなメリットです。
とくに資金繰りが厳しい時期には、キャッシュアウトを減らすための有効な選択肢にもなります。
しかしながら、損金計上には注意点もあります。
過去の処理との整合性や、会計上の扱い、税務調査でのリスクも意識しておく必要があります。
✅ メリット
- 利益を減らして法人税を抑えられる
- 廃棄などとセットで行えば明確な在庫整理になる
✅ デメリット
- 証拠書類や処分実態の記録が必要
- あくまで“処分”になるため、売上にはつながらない
在庫を売却する際の税務処理
在庫を損金計上せず、実際に売却する場合は「売上」として処理されます。
つまり、在庫は資産から商品へ変わり、収益化されるということになります。
たとえば、OEMで作ったギフトセットを「訳あり品」としてアウトレットECで販売した場合、その収益はすべて売上として計上されます。
この場合、販売価格に応じた利益が出る反面、課税対象にもなることを理解しておく必要があります。
✅ 税務処理の流れ
- 販売額:売上高として計上
- 原価:仕入原価または製造原価として損金処理
- 差額:利益として課税対象になる
売却することで現金が入るのは魅力的ですが、会計上は「利益が出る」=税金も発生するという点に注意が必要です。
売却と損金計上の比較
在庫処理には「損金計上」か「売却」の選択がありますが、どちらが適しているかは、その在庫の状態と会社の状況によって異なります。
比較項目 | 損金計上 | 売却 |
---|---|---|
税務上の扱い | 経費として処理 | 売上として処理(利益が出る) |
現金化の可否 | 不可(処分のみ) | 可能(販売による収益) |
証拠書類の必要性 | 高い(廃棄証明・値引記録など) | 一般的な販売記録でOK |
税務リスク | 税務調査での確認リスクが高い | 通常処理、リスク低め |
このように、在庫の処理方法によって財務にも税務にも大きな差が出ます。
どちらを選ぶべきかは、「売れる可能性」「保管コスト」「会社の資金状況」などを総合的に見て判断することが重要です。
✅ ヒント
「売れる可能性が少しでもあるなら、販路に出して“売却を試す”ことから始めてみるのも一つの手です。」
OEM在庫処分時の判断ポイント

在庫の状態評価
OEM在庫を処分する際、最初に確認すべきなのが「その在庫に市場価値があるかどうか」です。
たとえば、パッケージが多少傷んでいても中身に問題がなければ、訳あり商品として十分に販売可能です。
反対に、ブランド制約や賞味期限切れなどによって、市場に出せない在庫も存在します。
✅ 状態評価で見るポイント
- 製品の物理的状態(破損・ラベル不良など)
- 賞味期限・使用期限の残日数
- OEM契約上の制限(ブランド使用不可など)
- 一般販売に耐えるかどうか(品質・見た目)
「売れるのか、売れないのか」ではなく、「どう売れる形に再設計できるか?」という視点で判断することが重要です。
状態を把握することで、処分か販売か、適切な判断が可能になります。
財務状況とキャッシュフローの考慮
OEM在庫の処分を検討する際には、自社の財務状況やキャッシュフローの状態をあわせて確認する必要があります。
とくに現金が不足しているタイミングであれば、多少安価でも現金化を優先する判断が現実的です。
✅ 財務的に見て判断すべきポイント
- 在庫を保管し続けるコスト(倉庫代、人件費など)
- 今後の販売見込みと回収までの期間
- 廃棄による損金計上の節税効果
- 即現金化による資金繰り改善のインパクト
“在庫を持ち続けるコスト”と“売却による即金化”を比較し、自社のキャッシュフローにプラスになる選択を取ることがカギです。
税務リスクとコンプライアンス
OEM在庫の処分方法によっては、税務リスクが発生するケースがあります。
たとえば、損金計上を行う際には「本当に売れなかったのか」「廃棄処分が適切だったのか」といった点が、税務調査で確認される可能性があります。
✅ 税務リスクを避けるための注意点
- 廃棄処分時の写真や証明書類の保存
- 値下げ販売の履歴やキャンペーン記録
- 在庫評価の根拠(市場価格、売却困難性)
- 税理士など専門家への事前相談
適切な手続きを行わずに在庫を処分した場合、税務上の否認リスクが生じることがあります。
そのため、帳簿上の処理と実際の処分内容に乖離がないよう、コンプライアンスを意識した対応が必要です。
成功事例:適切な在庫処分で税務メリットを得たケース

ある企業のOEM在庫処分と税務対応
ある食品加工会社では、OEM製品の販促用ギフトセットが納品直前でキャンセルとなり、大量の在庫を抱えることになりました。商品自体は良品で、賞味期限も十分に残っていたものの、相手先ブランドのロゴが入っていたため通常ルートでの販売は困難でした。
そこで同社は、商品を訳あり品として再構成し、ラベルを変更したうえでエシカル系の通販サイトを活用してアウトレット販売を開始しました。販売価格は通常の7割程度とし、在庫の約8割を3か月で売り切ることに成功しました。
✅ 税務対応のポイント
- 在庫の評価額を市場価格に見合う水準まで引き下げた
- それでも売れ残った分については、実態に基づいた損金処理を実施
- 廃棄証明や値引き販売履歴など、税務調査に対応できるエビデンスもきちんと準備
このように、ただ「売れ残ったから損金処理する」のではなく、まず販売努力を行い、その結果をふまえて適切に処理したことが、税務的にも信頼される対応につながったのです。
成功の要因と学べる点
この事例から学べるのは、「在庫をただ減らす」のではなく、一度“商品としての可能性”を最大限に活かしてから処理する姿勢が大切だということです。
✅ 成功の要因
- OEM在庫の再販可能性をすぐに判断し、販路を確保したこと
- 商品価値を下げすぎず、ラベル変更やセット化など工夫ある売り方を実践したこと
- 税務面では記録と実態の整合性を意識した処理を行ったこと
在庫処分は、短期的な損切りではなく、経営資源を有効活用するひとつの選択肢。
商品をただ捨てるのではなく、誰かの手に届ける方法を考えることで、企業にも環境にもプラスの循環が生まれます。
このような視点をもつことが、これからの時代の「エシカル経営」につながるヒントになるかもしれません。
まとめ:自社に最適な在庫処分方法を選ぶために

損金計上と売却の違いと判断基準
OEM在庫を処分する際には、「損金計上」と「売却」のどちらが適しているかを見極める必要があります。
それぞれにメリット・デメリットがあり、在庫の状態や販売の可能性、会社の財務状況などによって判断は変わります。
✅ 判断のポイント
- 在庫が販売可能なら、まずは売却を試みるのが基本
- 売却できず、実態に基づいて価値が著しく下がっている場合は損金計上が検討対象
- 税務処理は慎重に行い、帳簿・証拠の整合性を確保することが重要
短期的なコスト回収か、節税効果か、自社にとってどちらが優先されるのかを明確にしておくことで、より適切な判断ができるようになります。
専門家への相談と販路の検討をすすめる理由
在庫処分は単に“余ったものを減らす”作業ではなく、財務・税務・販売のバランスをとる経営判断です。
とくにOEM商品のように取り扱いが難しい在庫の場合、自社だけで判断するとリスクや見落としが生じる可能性があります。
✅ 専門家相談が必要な理由
- 税務処理における損金算入要件や注意点の確認
- 損金と売却のシミュレーションによる比較判断
- 将来の税務調査にも耐えうる記録の整備が可能になる
また、在庫の“出口”をしっかりと確保することも重要です。
エシカル消費が広がる今、訳あり商品やOEM在庫でも受け入れられる販路が増えています。
✅ 販路検討で意識したいこと
- ブランド毀損リスクの少ない訳ありECサイトの活用
- 共感性や社会性を重視した消費者とのつながりづくり
- 少量からでも始められる販路で手間をかけず現金化する仕組み
在庫を価値ある資産として活かすために、専門家の力と販路の知恵を組み合わせることが、結果的にもっとも効率的でサステナブルな選択になるのではないでしょうか。